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ばくやくのはなかご

爆薬の花籠

海野 十三

「少女倶楽部」1940(昭和15)年6月~1941(昭和16)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 101,908 字 · 204 页

青空文庫

長官は、X塗料の棒のことを残念がっているのだった。

「おい、帆村君。残っているのは、今ここにあるこれだけか」

長官は、卓子のうえに広げられた散薬の紙包ほどのものを指さす。その紙のうえには、なんだかくろずんだ粉が、ほんの少量、ほこりのようにのっていた。

「はい、これだけであります。これは、塗料の棒を包んであった油紙を、よく注意して、羽根箒ではき、やっとこれだけの粉を得たのです」

「実に、微量だなあ。これじゃ、分析もなにもできまい」

「はあ」

帆村は、唇をかんで、頭をたれるより外に、こたえるすべをしらなかった。

「しかし、これでも無いよりはましだ。いたずらに、取り返しのつかぬことをなげくまい。そして、不利な現状の中から、男らしく立ち上るのだ」

長官は、帆村のために、慰めのことばをかけた。帆村はいよいよ穴もあらば入りたそうである。

「とにかく、工場の方と連絡をしてみよう。彦田博士に、ここへ来てもらおう」

「彦田博士?」

「君は、彦田博士を知らないのか。博士は、篤学なる化学者だ。そして極東薬品工業株式会社の社長だ。今、呼ぼう」

長官は、ベルを押して、秘書をよんだ。

「彦田博士を、ここへ案内してくれ」