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ちち

父

太宰 治

「人間」1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,298 字 · 15 页

青空文庫

と書けば、いかにも私ひとり高潔の、いい子のようになってしまうが、しかし、やっぱり、泥酔の果の下等な薄汚いお色気だけのせいであったのかも知れない。謂わば、同臭相寄るという醜怪な図に過ぎなかったのかも知れない。

私は、その不健康な、悪魔の許にいそいで出掛けた。

「おめでとう。新年おめでとう。」

私はそんな事を前田さんに、てれ隠しに言った。

前田さんは、前は洋装であったが、こんどは和服であった。おでんやの土間の椅子に腰かけて、煙草を吸っていた。痩せて、背の高いひとであった。顔は細長くて蒼白く、おしろいも口紅もつけていないようで、薄い唇は白く乾いている感じであった。かなり度の強い近眼鏡をかけ、そうして眉間には深い縦皺がきざまれていた。要するに、私の最も好かない種属の容色であった。先夜の酔眼には、も少しましなひとに見えたのだが、いま、しらふでまともに見て、さすがにうんざりしたのである。

私はただやたらにコップ酒をあおり、そうして、おもに、おでんやのおかみや女中を相手におしゃべりした。前田さんは、ほとんど何も口をきかず、お酒もあまり飲まなかった。

「きょうは、ばかに神妙じゃありませんか。