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ちち

父

太宰 治

「人間」1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,298 字 · 15 页

青空文庫

実に、べらぼうにお金のかかる大病人である。一族から、このような大病人がひとり出たばかりに、私の身内の者たちは、皆痩せて、一様に少しずつ寿命をちぢめたようだ。死にやいいんだ。つまらんものを書いて、佳作だの何だのと、軽薄におだてられたいばかりに、身内の者の寿命をちぢめるとは、憎みても余りある極悪人ではないか。死ね!

親が無くても子は育つ、という。私の場合、親が有るから子は育たぬのだ。親が、子供の貯金をさえ使い果している始末なのだ。

炉辺の幸福。どうして私には、それが出来ないのだろう。とても、いたたまらない気がするのである。炉辺が、こわくてならぬのである。

午後三時か四時頃、私は仕事に一区切りをつけて立ち上る。机の引出しから財布を取り出し、内容をちらと調べて懐にいれ、黙って二重廻しを羽織って、外に出る。外では、子供たちが遊んでいる。その子供たちの中に、私の子もいる。私の子は遊びをやめて、私のほうに真正面向いて、私の顔を仰ぎ見る。私も、子の顔を見下す。共に無言である。たまに私は、袂からハンケチを出して、きゅっと子の洟を拭いてやる事もある。そうして、さっさと私は歩く。