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ちちのてちょう

父の手帳

宮本 百合子

「中條精一郎」(追悼録)、国民美術協会、1937(昭和12)年1月発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,342 字 · 13 页

青空文庫

時々妻や娘たちを事務所によらせて昼飯や夕飯に出ることは晩年までつづきました。こういう父の一面に公私混同をきらう気質がよくあって、仕事のことになると、家族であるなしということの情実に支配されることを極端にさけていたと思われます。長男の国男は建築をやっているのですが、父は建築家として彼を見ることではなかなか点が辛うございました。息子だからと云うので同じ事務所にいても特別に扱うことをひどくいやがっており、自力をつけさせようとしていたのですが、弟として見れば、技術上の先輩として父親として、して貰えたらと思ったようなこともまたあったでしょう。

父は、自身さえ予想しなかったほど急に没する三日前、一九三六年一月二十七日まで、手帳を書き入れています。その頃つかっていた万年筆がこわれていて、インクの出る方を逆にあっち側に向けたような妙な持ち方で、しかも、これで書きいいから奇妙なものだ、と云って書いていた、その細かい、どこかに激しさのこもった筆蹟です。お正月の元日は、林雅之助氏と蓮台寺温泉に泊ったことが書いてあり、七日にはその休暇旅行のつづきで、保科氏、宮島氏と湯河原のあたりを散歩したことがあり。