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ちちのてちょう

父の手帳

宮本 百合子

「中條精一郎」(追悼録)、国民美術協会、1937(昭和12)年1月発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,342 字 · 13 页

青空文庫

このときの三人の写真が、没後届けられ、一目見て、父の相貌が、これまでのどの写真にもなかった憔悴と哀れさ、何とも云えぬ鬼気めいたものを湛えているのに心を打たれました。

けれども、その頃父はもとより自分の体の内部に起りかかっていた深刻な変調を自覚しなかったのでしょう。八日には「A・M・8。寿江子ヨリ電話。アタミホテルニ来遊ノ旨、歓迎ト答ウ。A・M・0木村徳衛氏来遊土佐(二字不明)解説一冊ヲ受ク」

「十日、金曜日にP・M9・25熱海発宮の下富士屋ホテル行一泊ス。」この日には鉛筆で書かれ大きい別な字で、

┌──────┐┌───┐

│血尿 3回 ││宮の下│

└──────┘└───┘

と特記しています。

熱海ホテルでは暖房の工合がわるくて落付かないと云って、妹をつれ、宮の下へ行ったのだそうでした。翌十一日には、朝昼二回血尿とあり。父は自分の体の異和を益々感じたと見え「A・M・9発(箱根宮の下八時半立)汽車ニテ直接慶応病院ヘ入院ス」と、やはり鉛筆で記入しています。例の調子で「二階い十」と別にかこって書いています。

┌──┐

│KO│

└──┘

などともある。