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うし

牛

坂口 安吾

「文藝春秋 第三一巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,971 字 · 25 页

青空文庫

光也の父はことごとく驚嘆して叫んだ。しかし、すぐ気がついて、云った。

「ダメ、ダメ。ウチは百姓だ。百姓のヨメは郵便局で事務をとるようにはいかんよ。朝は早くから台所で水仕事をして、それから野良にも出なければならん」

「しかし、子供同志は云い交している。アンタが文句を云うのは人権ジュウリンだ」

「化け物と云い交すはずはない」

「しかし、クラヤミのことだからな」

郵便局長はニヤリと笑った。

光也の父はそれをきくと絶望的な気持におそわれた。有り得ないことではない。しかも祖先の神前で云い交すとは話の外だ。

田舎の人々の高声は隣室まで筒ぬけだった。そして、否応なくそれを聞いてしまった光也は尚さら絶望的であった。

その娘はセムシでビッコであるばかりか、一目見ただけで胸騒ぎがするような特別の顔をしていた。鼻も、頬も、顎もとがり、顔全体が一握りほどの小ささで、蒼ざめているのであった。

光也はその娘と云い交した事実はなかった。神前で行われたことだから、いくらでも堂々と否定できると考えたが、キャラメルをもらったことや、つい今しがたまで再会を切望して泣きたいような気持だったことを思うと、云い交したということがイワレのないことでもないと考えられて切なくなってしまうのだ。