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うし
牛
「文藝春秋 第三一巻第五号」1953(昭和28)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,971 字 · 25 页
それを思いだすと、女が何者とも知れないこと、地上の誰も経験したことのないいたましい悲劇のように思われた。
「オレだけ運がわるいのかな。どうもそうらしい気がするが、こういう悲観的な考えは人生に害があるだけかも知れない」
彼はそんな風に考えて、自分の人生を好転させようとする努力を忘れなかった。
明日は新学期で、学校の寄宿舎へ旅立つという晩、村の郵便局長が彼の父を訪ねてきた。彼の娘を光也のヨメにもらってくれないかというのであった。
「実はな。光也君が拝殿へ閉じこもっているとき、キャラメルを持って見舞いに行って、云い交したそうだが」
「分った。それでは、これがその娘だ」
父はしまっておいた例の手紙をとりだして見せた。郵便局長は一見してうなずいた。
「これは娘の手だ」
「あんたの娘はまだ小さいが」
「イヤ。郵便局で事務をとっているのがいる」
「あれはカタワだろう」
「ちょッと背中がまがっている」
「あれはセムシというものだ」
「そう云うこともできる」
「ビッコじゃないか」
「片足も少しわるい」
「ひどいビッコだ」
「多少歩行に不自由はある」
セムシでビッコの娘であった。
「よくあの足で真ッ暗闇の山道をテッペンの神社まで登ったなア」