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かわ

牛をつないだ椿の木

新美 南吉

新美南吉『牛をつないだ椿の木』。同一底本的分册已合并为一书。收入:川、張紅倫、久助君の話、正坊とクロ、嘘、病む子の祭、うた時計、和太郎さんと牛、屁。

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 75,647 字 · 155 页

青空文庫

あたりで仕事をしていた人も、少佐が万年筆を買うといいだしたので、ふたりのまわりによりたかってきました。いろんな万年筆を少佐が手にとって見ているあいだ、中国人は、少佐の顔をじっと見まもっていました。

「これを一本もらうよ。いくらだい」

「一円と二十銭」

少佐は金入れから、銀貨を出してわたしました。中国人はバスケットの始末をして、ていねいにおじぎをして、出ていこうとしました。そのとき、中国人は、ポケットから懐中時計(どけい)をつまみ出して、時間を見ました。少佐は、ふとそれに目をとめて、

「あ、ちょっと待ちたまえ。その時計を見せてくれないか」

「とけい?」

中国人は、なぜそんなことをいうのか、ふにおちないようすで、おずおずさし出しました。少佐が手にとってみますと、それは、たしかに、十年まえ、じぶんが張紅倫(ちょうこうりん)にやった時計です。

「きみ、張紅倫というんじゃないかい」

「えっ!」と、中国人のわかものは、びっくりしたようにいいましたが、すぐ、「わたし、張紅倫ない」

と、くびをふりました。

「いや、きみは紅倫君だろう。わしが古井戸の中に落ちたのを、すくってくれたことを、おぼえているだろう? わしは、わかれるとき、この時計をきみにやったんだ」