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うしをつないだつばきのき
牛をつないだ椿の木
「少國民文化」1943(昭和18)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,096 字 · 19 页
「あんたは、また来ましたね。親父はまだ生きていますよ。」
と、出て来た息子さんがいいました。
「いえ、わしは、親父さんが生きておいでのうちに、ぜひおあいしたいので。」
と、海蔵さんはいいました。
老人はやつれて寝ていました。海蔵さんは枕もとに両手をついて、
「わしは、あやまりに参りました。昨日、わしはここから帰るとき、息子さんから、あなたが死ねば息子さんが井戸を許してくれるときいて、悪い心になりました。もうじき、あなたが死ぬからいいなどと、恐ろしいことを平気で思っていました。つまり、わしはじぶんの井戸のことばかり考えて、あなたの死ぬことを待ちねがうというような、鬼にもひとしい心になりました。そこで、わしは、あやまりに参りました。井戸のことは、もうお願いしません。またどこか、ほかの場所をさがすとします。ですから、あなたはどうぞ、死なないで下さい。」
と、いいました。
老人は黙ってきいていました。それから長いあいだ黙って海蔵さんの顔を見上げていました。
「お前さんは、感心なおひとじゃ。」
と、老人はやっと口を切っていいました。
「お前さんは、心のええおひとじゃ、わしは長い生涯じぶんの慾ばかりで、ひとのことなどちっとも思わずに生きて来たが、いまはじめてお前さんのりっぱな心にうごかされた。