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うしをつないだつばきのき

牛をつないだ椿の木

新美 南吉

「少國民文化」1943(昭和18)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,096 字 · 19 页

青空文庫

一

山の中の道のかたわらに、椿の若木がありました。牛曳きの利助さんは、それに牛をつなぎました。

人力曳きの海蔵さんも、椿の根本へ人力車をおきました。人力車は牛ではないから、つないでおかなくってもよかったのです。

そこで、利助さんと海蔵さんは、水をのみに山の中にはいってゆきました。道から一町ばかり山にわけいったところに、清くてつめたい清水がいつも湧いていたのであります。

二人はかわりばんこに、泉のふちの、しだやぜんまいの上に両手をつき、腹ばいになり、つめたい水の匂いをかぎながら、鹿のように水をのみました。はらの中が、ごぼごぼいうほどのみました。

山の中では、もう春蝉が鳴いていました。

「ああ、あれがもう鳴き出したな。あれをきくと暑くなるて。」

と、海蔵さんが、まんじゅう笠をかむりながらいいました。

「これからまたこの清水を、ゆききのたンびに飲ませてもらうことだて。」

と、利助さんは、水をのんで汗が出たので、手拭いでふきふきいいました。

「もうちと、道に近いとええがのオ。」

と海蔵さんがいいました。

「まったくだて。」

と、利助さんが答えました。ここの水をのんだあとでは、誰でもそんなことを挨拶のようにいいあうのがつねでした。