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うしをつないだつばきのき
牛をつないだ椿の木
「少國民文化」1943(昭和18)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,096 字 · 19 页
「あそこの道ばたに井戸があったら、いいだろにのオ。」と、いいました。
「そりゃ、道ばたにあったら、みんながたすかる。」
と、いって、お母さんは、あの道の暑い日盛りに通る人々をかぞえあげました。大野の町から車をひいて来る油売り、半田の町から大野の町へ通る飛脚屋、村から半田の町へでかけてゆく羅宇屋の富さん、そのほか沢山の荷馬車曳き、牛車曳き、人力曳き、遍路さん、乞食、学校生徒などをかぞえあげました。これらの人ののどがちょうどしんたのむねあたりで乾かぬわけにはいきません。
「だで、道のわきに井戸があったら、どんなにかみんながたすかる。」
と、お母さんは話をむすびました。
三十円くらいで、その井戸が掘れるということを、海蔵さんが話しました。
「うちのような貧乏人にゃ、三十円といや大した金で眼がまうが、利助さんとこのような成金にとっちゃ、三十円ばかりは何でもあるまい。」
と、お母さんはいいました。海蔵さんは、せんだって利助さんが、山林でたいそうなお金を儲けたそうなときいたことをおもいだしました。
ひと風呂あびてから、海蔵さんは牛車曳きの利助さんの家へ出かけました。
うしろ山で、ほオほオと梟が鳴いていて、崖の上の仁左エ門さんの家では、念仏講があるのか、障子にあかりがさし、木魚の音が、崖の下のみちまでこぼれていました。