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うしをつないだつばきのき

牛をつないだ椿の木

新美 南吉

「少國民文化」1943(昭和18)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,096 字 · 19 页

青空文庫

」

利助さんは、いままで調子よくしゃべっていましたが、きゅうに黙ってしまいました。そして、じぶんのほっぺたをつねっていました。

「どうだエ、利助さ。」

と、海蔵さんは、しばらくして答えをうながしました。

それでも利助さんは、岩のように黙っていました。どうやら、こんな話は利助さんには面白くなさそうでした。

「三十円で、できるげながのオ。」

と、また海蔵さんがいいました。

「その三十円をどうしておれが出すのかエ。おれだけがその水をのむなら話がわかるが、ほかのもんもみんなのむ井戸に、どうしておれが金を出すのか、そこがおれにはよくのみこめんがのオ。」

と、やがて利助さんはいいました。

海蔵さんは、人々のためだということを、いろいろと説きましたが、どうしても利助さんには「のみこめ」ませんでした。しまいには利助さんは、もうこんな話はいやだというように、

「おかか、めしのしたくしろよ。おれ、腹がへっとるで。」

と、家の中へむかってどなりました。

海蔵さんは腰をあげました。利助さんが、夜おそくまでせっせと働くのは、じぶんだけのためだということがよくわかったのです。

ひとりで夜みちを歩きながら、海蔵さんは思いました。