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ぎゅうにゅうとうま

牛乳と馬

豊島 与志雄

「思索」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页

青空文庫

わたしは呆気に取られた。悪意はなさそうだが、ずいぶん勝手な人だ。待っていようか、それとも行ってしまおうか。考えながら、川の方へ眼を落すと、彼が蹴込んだ硝子の破片が水底にきらきら光っている。おかしくなった。それに、牛乳もやはりほしかった。特別に新鮮なのをと、あの茶店に頼んで、一日おきに一升ずつ取りに行ってるもので、手ぶらで帰ったら、お母さまは、殊に病気のお姉さまは、がっかりなさるだろう。わたしは待つことにきめた。

橋の欄干によりかかって、川の底を覗いた。硝子が光っている。あの光りを見て、もしかすると、小魚が泳いでくるかも知れない。けれどいくら待っても、何にも出て来なかった。へんにつまらなくなった。魚が見えないからではなく、硝子の破片なんかあるからだ。

わたしは橋を離れて、川の土手を歩いてみた。よいお天気で、陽光は暖く、川風は凉しかった。野原に出て、足を投げ出し、青空にくっきり浮き出してる山々を眺めた。

ずいぶん時間がたったような気がした。遠くに馬の足音がした。知らん顔をしていてやった。

「おーい、おーい。」と馬上から呼ぶ。

ほかに何とか呼び方もあろうに、と不満だったが、橋のところに戻って来た。