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ぎゅうなべ
牛鍋
「心の花」1910(明治43)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,871 字 · 4 页
母猿もその芋を取ろうとする。子猿が母の腋を潜り、股を潜り、背に乗り、頭に乗って取ろうとしても、芋は大抵母猿の手に落ちる。それでも四つに一つ、五つに一つは子猿の口にも入る。
母猿は争いはする。しかし芋がたまさか子猿の口に這入っても子猿を窘めはしない。本能は存外醜悪でない。
箸のすばしこい本能の人は娘の親ではない。親でないのに、たまさか箸の運動に娘が成功しても叱りはしない。
人は猿よりも進化している。
四本の箸は、すばしこくなっている男の手と、すばしこくなろうとしている娘の手とに使役せられているのに、今二本の箸はとうとう動かずにしまった。
永遠に渇している目は、依然として男の顔に注がれている。世に苦味走ったという質の男の顔に注がれている。
一の本能は他の本能を犠牲にする。
こんな事は獣にもあろう。しかし獣よりは人に多いようである。
人は猿より進化している。
(明治四十三年一月)