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ぼたん

牡丹

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,684 字 · 26 页

青空文庫

などと、静かなうちに歯切れよく話した。

「若しお願いするとなりゃこの方に万事御相談願うことになるんですよ。私なんぞ絵図を見せてお貰いしたって、目の前に出来上ってからでなけりゃ、どっち向いて入る訳なんだか見当がつかない有様なんですもの」

何となし鷹揚な女であった。石川は間数や、大体の好みなどを訊いて帳面につけてから、連立って土地を見に行った。大通りをずっと奥まってから右に入った空地であった。石川は思わず、

「ああ、こっちですか」

と、雑草を掻き分けて踏み込みながら云った。

「ここはいい地面です。あの通り北がずっと松林で囲まれて、こう南が開いていますから。――五百坪ですか」

「そうでしたっけね。……去年来たときから見るとその辺の樹も太くなったようですね」

「同じ信託地の内でも、あっち側は低いし、時代のついた木なんぞ一本もありませんから、さて建てるとなると、庭が大変です」

女は都会人らしく気味悪そうに空地の入り口に袂を掻き合わせて佇んでいた。裏の松林からときどき松籟が聞こえた。雑草の蔭に濃い紫菫が咲いていた。

見積りも面倒なく済んで、地形にとりかかった。石川の経験ではすらりと進み過ぎたくらいの仕事であった。