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ぼたん

牡丹

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,684 字 · 26 页

青空文庫

実を云えば、見積書をもって行って手金を受取るまで、石川は大して当にしていなかった。それほど話しの切り出された抑々から何だか皆の心持が単純であった。――永年の宿望を遂げて、貯蓄した金でさて一軒建てようという人々のように、騙されやしまいかと心配したり一円でも廉くていいものを使いたいとか、こせついて癪に触るようなさもしいところが、飯田の奥さんにはちっともなかった。――が、後見の手塚準之助が、あのひと、あのひとと呼ぶ彼女は、世間で云うままの内容において奥さんなのであろうか? 息子を持った中年の女を他に呼びようないので便宜上の呼び名であるのだろうか。せきは、一言の下に、

「玄人さお前さん、一目見たってわかるじゃないか」

と断定した。石川は、南洋の無人島で終日遙かな水平線ばかりを見詰めていたときから、上瞼が少し重たく眼尻のところで垂れ下っている船乗りらしい眼付になった。その幅広な視線で、元気な石女の丸まっちい女房を見下しながら、

「それは分っているさ……だがね」

「だがね、どうなのさ……」

「……ふむ!」

「いやだよこの人ったら……」

女房は、やがて、

「でもいい装をしてなすったねえ」