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ぼたん

牡丹

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,684 字 · 26 页

青空文庫

と云った。

「何でもなさそうにあんな指環はめていられる身分になりたいねえ」

工事が進むにつれ、原宿に住んでいる手塚が二日置きくらいに見廻りに来た。一緒に幸雄という息子も来るようになった。二十三四の母親似の若旦那であった。角帽をかぶっていた。

「若旦那――大学ですか」

「ああ」

「本郷ですか」

「うん」

「御卒業はいつです」

「出してくれりゃあ来年さ」

面長で顔の色など、青年にしては白すぎた。いかにも母親の注意が細かに行き届いた好い服装をし、口数の尠い男だが、普請は面白いと見え、土曜日の午後からふらりと来て夕方までいて行くことなどあった。母親もそうだが、この大学生にもどこか内気に人懐こいようなところがあった。草を拉いで積み重ねた材木に腰かけ、職人達に蕎麥を振舞い、自分も食べた。

「まずい蕎麥だなあ」

「そりゃ市内からいらしっちゃ蕎麥や鮨は駄目です」

「こんなのっきゃないのかい」

「何にしろ一軒ぎりですからね」

「ふうむ――いい店出したって立ち行かないんだろうね」

「顧客の数がきまってますからね――若旦那、御卒業なすったらこちらからお勤めですか」

幸雄は、植える松の根を、職人が多勢かかって締めているのを見ながら、