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おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
室生犀星『犀星王朝小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:荻吹く歌、舌を噛み切った女、玉章、津の国人、野に臥す者、花桐、姫たちばな。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,794 字 · 211 页
かくて、野の遊びのひと時はしずかに去って行った。かれらのいうことは野の穏やかさ美しさより外に、語らいとてもなかった。ただ、橘の父が何をいい出すかを予測するより外に、これという不安はなかった。
「わたくしもきょうのように佳い景色を見たことがございません。」
橘は誘われてそういった。橘がいるから景色が美しいのだということも、若者が殆ど同時に胸にうかんだ言葉だった。基経は先刻から黒鶫の去らぬ梢の姿を見ていたが、この機会を逸してはならぬと、突然、基経は鶫を指差していった。
「あれを見られい。」
はしばみの枝々をうつろうともしない何羽かの黒鶫を、二人の若者は見上げた。橘も、はっと胸を打たれる思いで、梢を見上げ、父の眼の光を見た。それは、容易ならぬ父の眼のありどころを、橘は自分自身のなかに感じたのであった。もう、時が来ていると思わずにいられなかった。基経の第二の声は命令者のようにきびしく叫ばれた。
「鶫をお打ちあれ。」
津も、和泉も、それがどういう試みの言葉であるかを知っていた。一人は白羽の矢をつがえ、一人は中黒の矢をつがえ、狙いが決った時、同時に矢ははしばみの枝をくぐって放たれた。