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おぎふくうた

犀星王朝小品集

室生 犀星

室生犀星『犀星王朝小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:荻吹く歌、舌を噛み切った女、玉章、津の国人、野に臥す者、花桐、姫たちばな。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,794 字 · 211 页

青空文庫

野に臥す者

経之の母御は朝のあいさつを交したあとに、ふしぎそうな面持でいった。

「ゆうべそなたは庭をわたって行かれたように覚えるが。」

「いえ、さようなことはございませぬ。誰かをご覧じましたか。」

それは確かに人かげを見うけ申した。月がなくただ星あかりでしか見えない池の裏手の、萩芒の枯れ叢の間をぬけて行った者がいた。かぶり物をしていたから顔はようは見られなかったがと、母御はそなたではなかったのかといった。

「ではやはり女であったらしい。」

「女とは?」

経之は女とは、御達のうちの誰かであったか、どうかといった。

「それから一刻のあとに寝もやらぬうちに、ふたたび庭をよぎって戻って行く姿を見ましたが、池の径から裏庭へ、つま戸の開く音がしたようにも覚えます。」

「するとそれは女部屋の方から出た者としか覚えませぬが、夜半に女の身で庭に出るとは考えられませぬ。」

「わらわもゆめかとも覚えるが、ひと夜に二度も姿を見うけては、ゆめではあるまい。」

「たしかにつま戸の開く音がいたしましたか。」

経之はつま戸の軋りの固いことは知っていたから、どのように、注意ぶかく開けても、更けた夜半には一応のささやかさであろうとも、音を絶つことはないはずだった。