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カラスキーしのゆうじょう
犂氏の友情
久生 十蘭
「オール讀物」1939(昭和14)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,312 字 · 27 页
なんでもない、ちょっとしたことだが、いかにも別世界へ飛び込んで来たような、なんとも言いようのない頼りない気持を感じさせる。
いつまでも尻込みをしていてもしようがない。ありとあらゆる勇気を非常召集して、グイと硝子扉を開けて内部へ入った。
ひどい臭気と温気が微妙に混り合って、もうもうと立ち罩めている。赭土の土間の上には、青痰やら、煙草の吸殻やら、魚の頭、豚の軟骨、その他雑多なものが参差落雑していて、ほとんど足の踏み場もない。
いかに石亭先生の依頼とはいいながら、こういう上品優雅な環境のなかでこれから四、五日暮さなければならぬかと思うと、いささか分に過ぎるようで、なんとなく心のほてりを感じる。
海象の牙のような太いダラリ髭を生やした主人らしいのが、水浅黄の油屋さんを掛けてひとを馬鹿にしたような顔で酒呑台のそばに突っ立っているから、そのそばへ行って、ゴイゴロフというのはどいつだ、と訊くと、ゴオルキイのような顔をした青前掛は、ニュッと大きな眼玉をむいて、
「てめえは、なんだ」
と、叱咤した。
オドオドしていたんじゃなめられてばかりいてしょうがないと思ったので声に力みをつけて、