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いぬさんたい

犬三態

宮本 百合子

「都新聞」1939(昭和14)年10月30、31日、11月1日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,236 字 · 9 页

青空文庫

その界隈にこの頃たつ家は、いずれもぐるりをコンクリートの塀で犇とかこって、面白いこともなさそうに往来に向って門扉も鎖してしずまっている。だが、昔ながらの木と土と紙でこしらえた家のまわりだけをそんないかめしいコンクリートでかこってみるのはどういうのだろう、そこには奇妙な感じもある。

夏のある朝早く、やはりそういうコンクリート塀の横を歩いていた。その塀は長くてなかなかつきない、一丈もあるその塀よりもっと高く繁っている樹木の枝が上から房々と垂れて、その片側もやはり塀であった。細い一本の道がそこを通って坂の下へと向っている。その時刻、人どおりはちっともなかった。青葉の陰翳が肩に落ちて来るようなしっとりしたその道を何心なく行くと、ひょっと白い大きいものの姿が見えておどろいた。極めて貴族的な純白のコリーが、独特にすらりと長い顔、その胴つき、しなやかな前脚の線をいっぱいにふみかけ、大きい塵芥箱のふたをひっくりかえして、その中を漁っているのであった。人気ない樹かげと長い塀との間の朝の地べたから巨大な白い髄が抽け出たような異様さで、その脚元にくさったトマトの濃い赤さ、胡瓜の皮の青さ、噎えたものの匂いをちらばしている。