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はんにん

犯人

坂口 安吾

「群像 第八巻第一号」1953(昭和28)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,695 字 · 26 页

青空文庫

なぜなら、彼女もこの部屋で全裸になったことがあるからであった。もっともそれは全裸になって医師に示さざるを得ない余儀ない病気のせいであった。人見に強いられてのことではない。

平戸先生は次第に蒼ざめた。ぞくぞく寒気がした。居たたまらない気持になった。

平戸先生がいそいでイトマをつげて去ると、花井が追ってきた。

「僕、お宅までお送りします」

「いいえ。おかまい下さらないで」

彼女は走った。花井も走った。彼女は次第に真剣に、夢中に走っていた。花井から逃れたかった。しかし、花井は逃さなかった。

彼女は自宅に駈けこむと、花井が同時に駈けこんだ。彼女は息も絶え絶えであったが、花井はなんでもない顔で、息が切れていても、それが当り前の人生だというような落ちつきを示していた。

「僕はあなたに感謝したかったんです。僕が潔白であることを信じていて下さったということ、実にありがたかったです。それにしても、彼がついに無言の告白を示して卒倒したのは、あなたの優しい心に刺戟が強すぎたのですね。お気の毒でした。僕は彼が真犯人だということをあなたに語りたいと思っていましたが、こんなに刺戟的にそれが行われることを望んでいたわけではありません」