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はんにん

犯人

坂口 安吾

「群像 第八巻第一号」1953(昭和28)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,695 字 · 26 页

青空文庫

彼女はその言葉を聞き流して、無言のまま室内の奥まで歩いて行って、起きてきた母親に云った。

「花井先生に帰っていただいて。殺してやりたいほど憎らしいわ。ぞくぞくするほど汚らしい人生を見せてくれたのよ。なんて、けがらわしい……」

涙があふれてきた。

★

翌日、人見は捜査本部へ喚びだされた。警部の横に毛里が肩をそびやかして控えていた。彼の指金であることは云うまでもない。しかし警部は彼の望むほど強硬ではなかった。

人見はさめざめと泣いた。そして言った。

「僕は混乱しています。疲れています。どうか三日間休息させて下さい。どうしていいか分らないのです。僕の言葉を考えさせて下さい。何を答えていいか分らないのです。その答を探すことができないのです。混乱しているのです。僕は休息が欲しい。さもないと、死にそうです」

「よろしい。混乱がしずまるまで休息をなさるがよい。あなたの部屋に看護人をつけておきますから、安心して眠りなさい」

「うちに看護婦もおりますから」

「ですが看護人の方が用心にもよろしいでしょう」

看護人とは刑事であることが呑みこめてきたので、人見は逆らわなかった。