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はんにん

犯人

坂口 安吾

「群像 第八巻第一号」1953(昭和28)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,695 字 · 26 页

青空文庫

「殺人の行われた日の夕刻あの部落を通りすぎるのを見たという者があるが」

「それはデマだ」

「何人も証人があるが」

(診療日記を調べたのち)

「あの部落のも一ツ奥の落合というところに急病人があって往診に行った」

「帰宅したのは何時ごろか」

「夕食をよばれてから辞去したが、おそくとも八時半ごろには帰ったと思う」

「兇行はその日の夕刻から夜半までの間と発表されているが」

(蒼ざめて無言)

「翌朝兇行の現場へ行ったか」

「里村巡査に頼まれたから行った。村で唯一人の医師として当然のことだ」

「現場に唯一人で居たことがあったか」

「里村巡査が電話して戻るまで、彼の依頼によって一人で残った」

「そのとき何か拾ってポケットへ入れたそうだが」

「デマも甚しい」

「多くの証人がそれを見ている」

「証人の名を言いたまえ」

「多くの少年がそれを見ている」

「それはまちがっている。自分がしたのは着物をもってきて屍体にかぶせたことだ。そのとき着物の間から何か落ちたから、手にとってみるとトランプのハートのクインであった。自分はそれを片隅へ投げすてた。それを誤解したのであろう」

「それを捜査本部へ通告したか」

「通告しない」