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ろうしつき

狼疾記

中島 敦

「南島譚」1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页

青空文庫

何故あの通りでなければならなかったのか。他の男ではいけなかったのだろうか?……周囲の凡てに対し、三造は事ごとにこの不信を感じていた。自分を取囲んでいる・あらゆるものは、何と必然性に欠けていることだろう。世界は、まあ何という偶然的な仮象の集まりなのだろう! 彼はイライラしていつもこのことばかり考えていた。時として何だか凡てが解りかけて来そうな気がすることもないではなかった。それは、つまりその場合その偶然が――何から何まで偶然だということが結局ただ一つの必然なのではないか、という・少年らしい曖昧な考え方であった。それで簡単に解答が与えられたような気がすることもあった。そうでない時もあった。そうでない時の方が遥かに多かった。幼い思索はいらいらしたはがゆさを感じながら、必然という言葉の周囲をどうどう廻りしては再び引返して行った。

映画は古風な河蒸気が岸の低い川を下って行くところをうつしていた。蕃地の探検を終えた白人の一行が引揚げて行く所なのであろう。

それも消え、最後の字幕も消えると、パッと電燈が点いた。

映画館を出ると、三造は、早目の晩食を認めるために、近処の洋食屋にはいった。