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りょうしょくのはて

猟色の果

野村 胡堂

「娯楽世界」1949(昭和24)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,611 字 · 5 页

青空文庫

女性というものの平凡さに、江島屋宗三郎は、つくづく愛憎を尽かして居りました。

持った女房は三人、関係あった女は何十百人、武家の秘蔵娘から、国貞の一枚絵になった水茶屋の女、松の位から根引いた、昼三の太夫まで、馴れ染めの最初は、悉く全身の血を沸らせるような、魅惑を感じたにしても、一度び手活けの花にして眺めると、地味で慾張りで食辛棒で、その上焼餅やきで口数が多くて、全く手の付けようのない駻馬と早変りするのです。

宗三郎は全くうんざりしてしまいました。金毛九尾の狐でも宜い、葛の葉更に結構、兎にも角にも、この女性に飽々した心を沸り返らせて、命までもと打込ませる魅力を発散する女は無いものであろうか。

お蔵前札差の若主人として、十何大通とやらの一人に数えられ、馬に食わせ度いほどの金を持って居る江島屋宗三郎は、根岸の寮の雪の一日を籠って、唐本の「聊斎志異」を読み耽り乍ら、斯んな途方もないことを考えているのでした。

この物語に出て来る、草木禽獣の精の妖しき美しさ、火花の散るような恋の遊戯、透き徹るような清冽な肉体など、江島屋宗三郎は夢心地に考えて居りました。あらゆる女出入に飽き果てた宗三郎に取っては、狐狸でも変化でも構わない、現世的な生活から逃離し、物的な慾望を持たない、恋の対象だけが望ましかったのです。