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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

と、今度は調子を和げて云い出した。

「そんなこと僕、覚えてエへん。」

「わてちゃんと数えててん。そのお皿の上に最初十三匹あってんけど、リリーが十匹食べてしもて、あんたが食べたのん三匹やないか。」

「それが悪かったのんかいな。」

「何で悪い云うこと、分ってなはんのんか。なあ、よう考えて御覧。わて猫みたいなもん相手にして焼餅焼くのんと違いまっせ。けど、鰺の二杯酢わては嫌いや云うのんに、僕好きやよってに拵えてほしい云いなはったやろ。そない云うといて、自分ちょっとも食べんとおいといてからに、猫にばっかり遣ってしもて、………」

彼女の云うのは、こうなのである。―――

阪神電車の沿線にある町々、西宮、蘆屋、魚崎、住吉あたりでは、地元の浜で獲れる鰺や鰯を、「鰺の取れ取れ」「鰯の取れ取れ」と呼びながら大概毎日売りに来る。「取れ取れ」とは「取りたて」と云う義で、値段は一杯十銭から十五銭ぐらい、それで三四人の家族のお数になるところから、よく売れると見えて一日に何人も来ることがある。が、鰺も鰯も夏の間は長さ一寸ぐらいのもので、秋口になるほど追い追い寸が伸びるのであるが、小さいうちは塩焼にもフライにも都合が悪いので、素焼きにして二杯酢に漬け、※莪を刻んだのをかけて、骨ごと食べるより仕方がない。