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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

それで庄造は、いくら塚本が執拗く云って来ても、彼一流の婉曲な口実でやんわり逃げているのであったが、福子もそれに賛成なのは無論のことで、庄造以上に態度がハッキリしていたのである。

「訳を云いな! 何のこッちゃ、僕さっぱり見当が付かん。」

そう云うと庄造は、銚子を自分で引き寄せて、手酌で飲んだ。それから股をぴたッと叩いて、

「蚊遣線香あれへんのんか。」

と、ウロウロその辺を見廻しながら、半分ひとりごとのように云った。あたりが薄暗くなったので、つい鼻の先の板塀の裾から、蚊がワンワン云って縁側の方へ群がって来る。少し食い過ぎたと云う恰好でチャブ台の下にうずくまっていたリリーは、自分のことが問題になり出した頃こそこそと庭へ下りて、塀の下をくぐって、何処かへ行ってしまったのが、まるで遠慮でもしたようで可笑しかったが、鱈ふく御馳走になった後では、いつでも一遍すうっと姿を消すのであった。

福子は黙って台所へ立って行って、渦巻の線香を捜して来ると、それに火をつけてチャブ台の下へ入れてやった。そして、

「あんた、あの鰺、みんな猫に食べさせなはったやろ? 自分が食べたのん二つか三つよりあれしまへんやろ?」