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ねこすてざか

猫捨坂

豊島 与志雄

「新文学」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

友人が来ると俺はそこで対談する。

中学時代の旧友が、或る晩、一瓶をさげて訪れて来た。玄関の三畳で飲んだ。その酒が彼は自慢なのだ。屋台店などに氾濫しているアルコール焼酎よりも遙かに上等で、アルコール・ウイスキーだと自称する。ちょっと色をつけ、ちょっと味をつけてある。彼自身の考案なのだ。これを飲み屋に卸せば可なりの利益になる。大量に生産して、莫大に儲けるつもりでいる。原料はいくらでも手にはいる、一緒にやらないか、と彼は俺に勧めた。

「非合法な仕事でもなんでも、構うものか。うまい酒を同胞に供給してやるんだ。そして酔っ払わしてやるんだ。」

彼は戦時中に召集されて、関東平野をあちこち歩かせられ、終戦後の復員で戻って来たのである。

彼の話によれば、兵隊としての主な仕事は、ただ地面を働い歩くことだったらしい。出来るだけ体を地面に低くつけ、腕と膝とで、出来るだけ早く匍い進み、背負った爆薬と共に、仮想の敵戦車にぶつかるのだ。出来る限り低く、出来る限り早く、匍ってゆけ匍ってゆけ。それが毎日の仕事だ。

「戦争が終って立ち上ると、俺は眩暈がした。」

「酔っ払った時の眩暈と、同じか。