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ねこぐるま
猫車
宮本 百合子
「改造」1937(昭和12)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,310 字 · 35 页
朝と昼とは家内じゅうがそこで遽しく食事をした。
お縫は、その張り出しと六畳との境の障子際に坐って、伯母のおさやの古浴衣をほぐしていた。庄平の骨ぐみの堂々と重く、しかし不随の腰の下に敷く小布団を縫わなければならないのである。
坂口の爺さんは、お縫のところから斜向いの畳の上につくばっているのであった。鉛筆を我にもあらず舐めくる程気を立てている爺さん、しかも数字さえしゃんしゃんとは書き込めない爺さんのあせった姿は、お縫にいつも気の毒さと同時に若い娘らしい軽い皮肉を感じさせた。お縫の目に、この奥の村の小地主の爺さんがみじめたらしく見えるには、理由もなくはなかった。お縫の父親、庄平の弟は、この数年来兄貴に野暮な商売をゆずって、小一里はなれた村の家で繻子足袋を穿き、頸に薄い茶色の絹襟巻をまきつけて、政治や経済の話を声高にして暮していた。順平の家庭は、話の間に大きい金高がしきりに交るような生活の調子であった。どんなに大きい金高でも、それはほとんど例外なしに語られているというだけで、順平一家の実際の生活は、土地の人々の間に祖先の代からしみこんでいる信用ののこりと負債との上に営まれていた。