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さる

猿

宮本 百合子

「サンデー毎日」1922(大正11)年7月10日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,437 字 · 11 页

青空文庫

猿

宮本百合子

人  物

ヨハネス   (十八歳)

エッダ    (十六歳)

エッダの母親 (四十歳前後)

場  所

デンマークの片田舎

時

或る秋

幕開く

第一 エッダの家の中

下手に、大きな鉄の蝶番(ちょうつがい)の付いた木の大扉、開け放してあり、傍の壁の三段の棚の上には、上部に大小の皿、下段には、鑵、硝子瓶その他、料理用の小道具が置いてある。

直ぐ前が、石塊で囲んだ炉、鋸歯のような自在鍵から、円い煮物鍋が下っている。

椅子、薪木入等。

上手には、頑丈な、手彫模様のついた木製の長卓子、腰掛、櫃(チェスト)等置かれている。

正面の素朴な硝子窓から、透明な黄昏(トワイ)の光(ライト)が部屋に入り、横顔を浮上らせながら、エッダ、白い後までまわる大前掛けをし、くるりと髪を包む頭巾をかぶって、糸車を廻している。母親、チロチロと小さい焔の見える炉辺で、縫物をする。暫く沈黙。――

やがて、

エッダ 阿母さん!

母親 何だい?(縫物の手を動かしたまま)

エッダ ヨハンがおそいね。……どうしたんだろう。

母親 ――あの子のことだから、また、野っ原に仰向いて、雲でも見ながら、腹の空(す)くのを忘れているんだろう。