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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

わたしは、もとから、余り気もち一杯だと言葉に出せなくなるの、御存じでしょう? あれらしいわ。そして、そういうときは、せっぱつまって、いきなり何か小さい行動で表現してしまうこと、覚えていらっしゃるでしょう? あなたはそういうわたしのやりかたを、快くうけとって下さいました。この手紙もそれよ。よくって? ここにあるものは、字ではないのよ、わたしよ。よくて?

堂々として、一つのこまのぬきさしならぬ、渋い美しい壮麗な大モザイックの円天井を見ます。その美しさのもとに生きることの歓喜のふかさは、それが大理石の円柱であったとしても耀き出さずにはいられないと思います。

喝采というものは、芸術のテーマとして最もむずかしいものだと思います。讚歎に負けてしまわず、その内容と意義を掌握することはむずかしく、もしそれが十分出来たらその芸術家そのものが、既に喝采に価するわけでしょう。

わたしは駄目ね。ここにいるのは、わたしよ、と、犬がうれしがってワンというようなことをするから。でも自分がワンといってかみつきたいようになるのは、何と満足でしょう。最上の理性と智慧とが、人間の最も本然な、素朴な、愛すべき表現をとるしかないということは、ほむべきかな、と云うしかありません。