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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
〔中略〕
さて、ここで忽然として家事的転換をいたします。袷の件。そちらにある銘仙の羽織を前へ出しておいて頂きます。その羽織と着物とを合わせて一枚の着物をこしらえ、羽織は別のにいたします。どうぞお忘れなくね。鏡の物語というのがありますが、それは又別に。
二月十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
二月十一日
ひどい風が納って、やはり春の近づいた天気になりました。紀元節というと、この日の夜まだ道具の揃わない動坂の家で、あなたが七輪に火をおこして御自慢になったのを思い出します。でもあの頃はああやっても家がもてたのね。何一つなくて、でも炭だけはたっぷりで、わたしはあしたの朝、途方もなくからいおみおつけをこしらえましたね、そして、私の御料理の腕前については、久しいことあなたは断言をはばかる、とう状態でいらしたわね、又いつひど辛いみそ汁をたべさせられるかと。思い出の中にある季節の感じは、こうして、風に鳴るガラスの音をききながら感じている今の気候と、どうしても同じようではありません。あの季節感の中には、早咲きの梅か何かいい匂いの花の枝が揺れて居りますね。