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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

東京に比べたら、というところがあって)緊張も準備もぼやんとして肉厚で、妙です。このゆっくり緊張でも只今のわたしは辟易よ。脚のうしろがつれたり腕がつれたりして大分、ブリューゲルの何とか聖泉の病婦人めいた形で歩いているのに、やっぱりもんぺはくし、号令をついかけるし。きょうも、今まで横になっていて(午後五時)北方の空もおだやかになりましたからこれをかき出しました。

ここの風呂の底がダメになりました。風呂材として杉の木を截りました。それを乾して風呂やにわたしました。風呂の釜はヤキいもの釜ですって。さかさにしてふくらんだ方を底にして、平和になったらひっくりかえしてイモをやく由(!)そこまで話をきいたのは去年でした。今もってフロのFの字もありません。林町にはボロ石炭があって、幸、風呂にはちょいちょい入り、それでもって居りました。こっちはその有様でうちの男女豪傑は、風呂はこの世にまれなりけり、という貌で笑っているわ。

この風呂については島田のお母さんも仰天なさったことがあるらしいのよ、昔、信濃町[自注17]へ十日ほどおとまりになったとき。あの優しい咲枝さんがどうして風呂ばかりは立てないかと。