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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

わたしの知っているおとくいの旦那で、社長さんなんですが、うちへ帰ると、きっと酒屋のしめる前かけね、あつしの、あれをかけるんです。旦那又酒屋さんですかっていうと、ああ、これをしめたら暖くてやめられないよ、という話でしてね」そこでわたしが又云うの「下町のひとは、着るもののしきたりなんか堅いけれども、山の手のものは平気だね、めちゃめちゃで」「マァそうですな、かまいませんね」つまり馬崎というその男は、ひどい風をしてのんきなのは私一人だけでないことを知っているというわけです。

三※日だったかの新聞に衣料疎開七日迄受つけとよんで、開成山へふとん類を送ってやったのです。一人ですっかり菰をかけるだけにしたから、へばりよ。荷作りも随分やって上達いたしました。姉なんかというものは妙なものね。こんなに骨を折って、やっぱり皆が助かるだろうとそんなものを送ったりして。別にたのまれもしないのに。

八日のお手紙、あんなに寒そうにしていらっしゃるのに、こうしてお手紙よむと、ちっともそんな風に思えず、一層沁々と拝見いたします。健気であればある丈いじらしくいとしいという心もちは、母だけがもつ心もちではないと思います。