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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
04 一九三七年(昭和十二年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页
では又
[自注10]お后――顕治の故郷の地方では、おくさん、おかみさんをお后はんとよぶ。
三月二十九日(消印) 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 厳島より(安芸の宮島廻廊より千畳閣を望む絵はがき)〕
ここは大変に明るい美しいところでびっくりしました。清盛という人物が只ものでなかったのがよくわかります。よい天気。お母さんと、砂と松の間をふらりふらりと歩いて、よい散歩です。あなたもここは御存じでしょう?
三月三十一日午後 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 山口県島田より(封書)〕
三月三十一日 ひる少し前 曇天。
下でお父さんが「お后、お后」と呼んでいらっしゃる。私は「ハイ、ハイ」と降りかけ「お后さまは今御用ですよ」御小水? 合点をなさる。用意してあげると「手をかせ」、私の手につかまって体を横になさるが、今度は勘ちがえ。それから起き上らせてあげて、背中のうしろにつめをかって、ラジオをかけてあげる。今甲子園のゲームです。あたりが静かなので「投げました投げました!」いう声が、窓の軒の下からきこえて来る。蛙が円い声で鳴いている。今日は勘定日でお母様はきのうからその準備で御多用。