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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
その色と匂と味いのうちに、あらゆるものを再現させるでしょう。そしてきっと泣くでしょうね。悲しみというのではなく、ね。この円い美しい盃に、二輪の撫子の花をさして、その盃もくだけそうな視線で眺めて、涙をおさえられなくても、やっぱり私は正気でいて、あなたと二人、そういう心持をも眺めているようなところ。本当に不思議と思う。この盃、この透明で円くて、何一つ余計な飾りのない無垢なこの盃。わたしの宝の中には不思議なものがあるでしょう。小さい木魚だの、片方のカフスボタンだの、くずかと思うようなものもある。考えたら何だか笑えてきました。親愛な滑稽さで。私たち人間の心というものの。
御注文の本、明日ぐらいに揃います。刑法切れているらしい様子ですが。〔中略〕
体温計のこと、土曜日におめにかかって。私が慶応に入院していた時のことを考えてみると、一分計は余りつかわれていず、平形の五分計でした。それを六、七分はかけたと覚えます。十分ではなかったと思います。〔中略〕
それから、一つ気味のわるいお話。新聞に出ているには、蜂須賀侯爵令姉年子という女のひとが(ひとりものの)、邸内に工場をたて、二十人の女工さんをつかって人間の髪の毛で混織毛織をつくる研究をしている由、国策。