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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
もし古典からの情景で心にのこるところと云って小説にもじってでも書けば、私ならここをかきますね。そんなことの感じかたも亦ちがうの。面白いでしょう? そして、くすくすひとり笑うのですが、私の作家としての最大の弱みは、夫婦をむつましさの美しさで描きたいところではないかしら、と(勿論これは笑い話よ、御安心下さい)。
それからもう一つ可笑しい話、
私に二足中歯の下駄があります。中歯というのは足駄より低くてね、そちらへ行くとき雨の日はくのです。歯をさし代えてははくのですが、それをきのう見たらね、二足ともまるで前歯がひどく減っていて、うしろとは比較にならないのです。
マヤコフスキーが死んだとき葬式へ行ったら、靴の大きい裏がこっち向に並んで見えて、その爪先についていた三角のへり止めの金が、まるで光って、へってピカピカしていました。爪先へついているの、へり止めが。そのことが印象にのこりました。
自分の下駄をしみじみながめてね、これは早死にしそうだと思ってね。私はもとはこんなに前歯をへらしたことなんかないのですもの。修業がいると思いました。でもね、これは行く方角の関係もあって、やっぱりどうしたって前歯はへるのかもしれないとも考えます。