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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
長くなってしまったことね。ではお大事に。明後日はお目にかかります。
九月四日 (封筒なし)
九月四日
きのうは何と大きい気持よい夕立だったでしょう。降りそうな雲の様子ではありましたが、あんなに堂々とふって。柔かい弾力ある雨粒が沛然と地面をうち、それは私の全身につたわり、その音や景色を眺めるうちに、段々気が遠くなってゆくようでした。つよい雨のリズムが脊髄に真直映って。私は何とも云えず快く疲れて、けさは何時間眠ったとお思いになって? 又無慮十三時間よ。
知っている女の人が満州へ行くのでおせんべつの買いものに出かけなければならないのだけれども、何となしぽーとして坐っているの。八十六度ありますが、風は、さすが夕立の後で、というより二百十日のあとらしく秋の気勢です。
きのうは小さい子供がどっさりいて、かたまって遊んでいるのを待つ間見ていました。子供が自分の親愛なものを何でも手を出してつかまえ口へもってゆくの面白いことね。うちの健坊もそうです。手と一緒に顔が出て行くのよ。口をとがらして。手につかまると同時に口へ入れるの。そして満足そうにして色ざしのいい口でしゃぶります。