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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
九月十日
いまは、夜の九時。涼しい風が吹きとおします、お湯をあびて来てここに坐っていたら話したくなりました。
きょうは、やや臥つかれたという御様子でしたね。無理もないと思います。いろいろと経験を重ねていらっしゃるから病気と闘う方法は会得していらっしゃるにしろ、ずっとお臥になって一ヵ月以上経ったのですものね。臥ていらっしゃる体がぎごちないというのは本当です。てのひらで撫でてほぐすべきところです、咲枝も丁度臥つかれた時分だわね、と衷心から云って居りました。
そういう疲れかたは著しいにしろ、先、腸の病気のとき恢復しかかって初めて会って下すった時の、あの忘られない憔悴は今度ありません。あのときの憔悴というものは、全くひどくて今迄申しませんでしたけれど、あなたの濃い髪の色が赤っぽく変って、生えぎわから浮いてポヤポヤに見えました。今度は毛が脱けるかもしれないけれどもあんなすさまじいやつれはありません。ただ、あの病菌はやはりこわいと思います。疲れかたがやはり深く時間をかけて恢復しなければならないのですもの。
そうやっていらして、悪い刺戟はないでしょうが、同時に、恢復のためにいい刺戟のうちに数えられる種類のことも少くてそれは不便です。