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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

妻たる女が良人を愛しているという本当の意味で生きている女が、初めて感応する深みです。そのレコードをあげたら、親にも子にも話しても分らず、又言葉ではない良人のなさけ、それに浴した妻のよろこびと涙とを感じて、涙の中から最も感情として純粋に立ち上れると思ったのでした。今頃そんな高級レコードはおいそれと買えないのよ。それで生も死も純粋な形である野獣の生活、そこにある生命力情愛の様々をよんだら、何かこまごまと世情人情にからみこまれた気分から、清冽な気分を味えようと思って。

そしたら一家じゅうの愛書となり大変よかったのですが、父さんは、手紙をよこされ、小さい男の子は自分が親代りになって育てるつもりだとのことです。これは婚家の気風の何かを無語のうちに反映していますし、娘の将来の生きかたについて思いなやんでいるとありました。娘さんは何か相談があるのでしょう。私のような後輩まで娘にとっての先輩としてそんなことも話す父親の情をつよく感じます。私たちも、情の深い父親をもって居りましたから。覚えていらして? スカンジナヴィアへ行かないかと云ったこと。あんな風でしたもの。