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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

三年前。結婚のときも、一寸相談をうけ、お父さんはあらゆる条件をととのえ、理想的な結婚をさせ、北京に出張していました。技師だったの。そしたらこの六月、東京へ帰任する決定で、最後の出張をして小さい村にある事務所にとまったら、その夜襲われて奮闘の後命をおとされました。兄さんとお父さんとが北京へ行って、「家財をとりまとめ」東京へ帰って来て、若い未亡人はお里と嫁家と半々に暮すことになりました。一男あり、三歳です。

私はこの人たちのつみのない幸福が、こうして破られたことにつき、又、娘の幸福を、万全つくして守ろうと努力して、より大きい力にその計画を挫かれた父親の心を深く同情して、通知を貰ったとき手紙をかき、お盆には娘さんにシートンの『動物記』をあげました。本当は、シューマンの詩人の恋というリード集のレコードがあってね、その歌曲を聴いていると、シューマンという人を通して、生粋の男の真の優しさ、情愛、愛着が身に沁みとおって感じられ、暖い暖い勇気を覚えます。その歌曲のメロディーに合わせて胸の底から鳴り出して来る女の真情が自覚されて来て、それは全く男の中の真実に相答えるものです。