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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

自分の一面の力への降伏であったと思います。更に面白いことは彼にあれだけの文学作品があって、それではじめて、あのモラリストとしての動きの意味や価値が明らかにされていることではないでしょうか。

「人はどれだけの土地がいるか」という民話ね、覚えていらっしゃる? いかにもあの時代の、地主の、良心ね。死んで葬られるだけあればよい、というの。そんな土地さえなくて、現代の人々は生き、そして死んで居ます。現代は、地球のどこにその土地を求めようというのでしょう。この間顔を洗っていて、朝何故だか其を思いおこし、トルストイの民話はつまらないと思いました。時代の制約の中でだけのモラルです。(少くとも或るものは)

馬琴の煩悶に托して芥川は、自分の疑問を追求したのね。しかしモラリスティックな欲求というものも馬琴はあの時代、もう武家の伝統が自ら推移したなかで、町人の文化の擡頭した時期に、伝統の擁護者としてリアクショナルなモティーヴからあらわれ、従って彼のモラルは前進する動きよりも類型をもって固まるしかなく、明治文学を毒した善玉悪玉式図式をつくってしまったのね。馬琴の悲劇は、モラルの本質がそういうものであったから、支那文学の影響も稗史小説、綺談等からうけ荒唐無稽的となり文学の一面で当時の卑俗さと結びついています。