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げんだいにんじゅつでん

現代忍術伝

坂口 安吾

「講談倶楽部 第一巻第八号~第二巻第三号」1949(昭和24)年8月1日~1950(昭和25)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,446 字 · 155 页

青空文庫

タヨリないスパイがあったもの。

サルトルもこれにはドギモをぬかれた。アプレゲールの病状の一つに、自虐趣味、露悪症、告白狂等々、一連の中毒症状があるのである。

サルトルに限って自虐趣味もないし、カストリ趣味もない。職業野球やタカラクジに亢奮する趣味もない。まことに無趣味な男で、アプレゲールの右翼である。

特攻隊的暴露症には縁がないから、その凄みにはタジタジ。

「スパイとおっしゃると、つまり、間者ですな」

などと、てれかくしに古風な言葉に英文和訳したが、このへんが渉外部長のあさましいところ。しかし怨みをふくんでランランたるツル子の瞳を見ると、ノンキに英文和訳などしている時ではないことが分った。

ジンの魔力によるせいでもあるが、一気にすべてを押しきった告白。清浄な処女性が透明な水滴となって怨みの上に怒りの涙をむすんでいる。アプレゲールの中毒的告白慢性症とちがって、品格がこもり、情熱と香気がみなぎっている。無趣味のサルトルも、気品に打たれてブルブルッとふるえた。

その一瞬にツル子の美しさ気高さが骨身にしみこんだというから、見かけによらぬオメデタイ男で、実にもうダラシなく感動してしまった。