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りそうのおんな

理想の女

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页

青空文庫

然し彼女は平然と澄しきっている。最後の止めの一句を云ってしまうと、それで安心しきったように、然しまた凡てから暫く休らいだかのように、「少しお父さんに抱っこしていらっしゃい、」と云いながら子供を私の方へ差出す。「はるに抱かしたらいいじゃないか、」と私は答え返す。一寸諍いが起る。「あなたは子供に愛がないんだわ、」と彼女は云う。……ああ、何という無知な言であるか! 然し、私は彼女ほどは子供を愛していなかったのかも知れない。

斯かる反目の或る時――みさ子が泣きしきるのを私が知らない顔で放って置いた時、一寸台所に立って行ってた秀子は、急いでやって来るなりすぐにこう云った。

「あなた位勝手な人はない、私に怒ると子供にまで怒りなさるんだから。」

私は黙って答えなかった。明かにその通りだったのである。私は秀子に対して腹が立つと、子供に対してまで腹が立つのだった。彼女に対する憤懣の余には、子供に当りちらすことさえあった。私はそれが人の父たる態度ではないことを知っていた。然しどうも仕方がなかったのだ。……そして私に対する彼女の不満や反感は、其処から芽すことが多かった。