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りそうのおんな
理想の女
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页
「千代子の写真、妙な物に用があるんだね。死んだ者は仕方がないじゃないか。……おい出しておやりな。」
私は叔母の方へ云った。
「よく似た人が居るものですから……。なるべく新らしいのが見たいんです。一枚だけで沢山です。」
叔母は手文庫の中から、最近の――死ぬ学年前の写真を取り出してくれた。私はそれを手に取って、眼をつぶったまま膝の上で披き、そしで眼を開いてみた。
ああその時私は、どんなに驚き、次には冷たくなり、次にぼんやりしてしまったことだろう。千代子の顔は、「彼女」――否「理想の女」とは、殆んど似もつかぬものであった。半身を少し斜にした姿が、肱掛椅子にかけ、手には扇を持っていた。その顔をよく見ていると、なるほど見覚えのある親しい点が一つ一つ出て来た。それは千代子に違いなかった。斜め左から両方へ分けられた髪が、冷悧な広い額を半ば隠していた。眉尻が心持ち下り、眼尻が心持ち上っていた。はっきりうち開いた眼の中に、艶やかな瞳が上目がちに置かれていた。下唇が殆んど目につかない位に歪んで、軽く上歯に噛まれてるような心持ちを与えていた。額から細り加減に落ちている双頬の線が、奥歯のあたりで一寸膨らんで仇気なさを作り、細い三角形の頤に終っていた。