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いきているかんばん

生きている看板

小川 未明

「早稲田文学」1927(昭和2)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,965 字 · 6 页

青空文庫

ないと、ひたすら、心で祈っていました。

また、近所のものは、兵蔵が、仕事に出かけたのを見て、

「珍しいことだ。」と、話をしていました。

兵蔵は、いつに変わらぬのんきな顔つきをして、しきりに筆を動かして、いま女の頭から描きはじめたところです。町の問屋や、工場や、会社などでは、目まぐるしく、人たちが働いている間に彼は、鼻唄をうたいながら、さも楽しそうに、美人の姿を描いていました。

番頭は、二、三度、家の外に出て、兵蔵の描いている看板を仰ぎましたが、いつまでも立って見ていずに、

「なるほどな。」といって、じきに店の内へ引っ込んでしまいました。

その日の晩方には、美しい女の立ち姿がみごとに描き上がりました。兵蔵は、はしごから降りて、しばらく道の上に立って、自分の描いた絵に見とれていました。

「ああ、よくできた。人好きのする顔だな。」と、いつしか、そばにきて立っていた番頭が、感心していったのであります。

兵蔵は、仕事を終わって、道具を片づけて帰りかけた。そして店を出てから、もう一度自分の描いた看板を見返していたが、いつしか考え込んで、地面へ釘づけにされたように、じっとして動かなかった。