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せいとしとのきろく

生と死との記録

豊島 与志雄

「帝国文学」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页

青空文庫

「どうも仕方がありませんね。」と云われた。

一時に、特にU氏が見舞って来られた。私はもう何とも云わなかった。U氏も黙って居られた。私達はただ低くお辞儀をした。

私は堯の喘ぐような呼吸をじっと見ていた。「坊ちゃん坊ちゃん!」と私は心の中で云った。それは堯が生れて間もない頃私がいつも呼んだ言葉だった。それから私はまた暫くして、「堯、堯!」と心の中でくり返した。私の心の中で、堯が遠くへ遠くへ私から離れてゆくような気がした。私は堯の手をじっと握っていた。もう私のうちには、希望も絶望も無かった。身体の内部がじりじりと汗ばんで来た。

附添看護婦が立ってゆくと、医員と看護婦長とがはいって来た。

「もう最期です。」と医員は云った。

私には分らなかった。唇をかみしめた。

暫くすると、喘ぐような堯の息が一つ長く引いた。とぷつりと呼吸が止ってしまった。じっと見ていると、軽く胸の中でぐぐーという妙な搾るような音がかすかにした。

水のはいった小さいコップに筆が添えて持って来られた。私はそれで堯の唇を。濡してやった。

「お気の毒様で……。」と看護婦が云った。

S子さんが声を立てて泣いた。