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せいとしとのきろく
生と死との記録
豊島 与志雄
「帝国文学」1918(大正7)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页
云い知れぬものが胸の底からこみ上げて来た。私ははらはらと涙を落した。私はどんなに堯を愛していたことか。そしてどんなに愛し方が足りなかったことか!
その後のことを私は殆んど何にも知らなかった。室の中には、私とS子さんと附添看護婦とだけが残った。堯の顔には白い布が被せられていた。じっと見ていると、まだ呼吸をしているように、蒲団の襟が動いて見えた。白布を取ってみると、堯は眼を少し開いていた。笑顔をしていた。額はまだ暖かかった。看護婦は眼瞼を揉んで、眼をつぶらせようとした。どうしても眼は少し開いたままで居た。「それの方がいい。」と私は云った。白布がまた被せられた。穏かな黒目がちな眼を少し見開いて微笑んでいる顔が、まざまざと私の脳裡に刻み込まれた。
私達はそのまま坐っていた。S子さんはいつまでもハンケチを顔に押し当てていた。私はじっと堪えた。
その時、Y君が見舞に来てくれた。玄関に出ると、私は急に顔全体が痙攣して、口が利けなかった。Y君は、堯と芳子とを思い違えていた。私は漸々、堯のこと、いけなかったことを云った。そして玄関で帰って貰った。
埋葬認許書のことで、区役所と警察署とへ行かなければならなかった。