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せいとしとのきろく
生と死との記録
豊島 与志雄
「帝国文学」1918(大正7)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页
私はその日、堯の顔を覗き込んだ。よく眠っていた。額に手をやると、まだ熱があったが、少しは減じたようだった。でもとにかく一寸した時にかかりつけの近くのU医師を呼ぶことにした。「大丈夫だ!」と私は云った。
私達だけ食事をした。食事の時はいつも、堯は私の足座の中に坐って物を食べた。その日は堯が眠っているので、珍らしく餉台の前に一人で坐ると、私は妙に物淋しかった。
食事がすんで暫くすると、堯は眼を覚した。抱いてやってもぐったりしていた。食麺麭の切れを持たしたが食べようともしないですぐに捨ててしまった。食物を取るようになってからも、昼と晩とだけ堯は粥を食べて、朝はいつも山羊乳に食麺麭を食べていた。それから食事の間にも、砂糖分の多い菓子は腸にいけなかったので、物を欲しがる時はいつも食麺麭をやっていた。それを堯はいつも大変喜んでたべた。毎日、少し遠かったが品がいいのでA堂から、麺麭を配達して貰っていた。がその日はその麺麭をも手にしなかった。「どうしたんだろう。」と私は芳子と顔を見合った。然し別に堯は泣きもしなかった。ただしきりに眠そうであった。
間もなくU医師はやって来た。